細胞農業と培養肉って実際どうなの?『夢の細胞農業 培養肉を創る』を読んでみた

2025年1月2日木曜日

SF アニメ マンガ 読書

『夢の細胞農業 培養肉を創る』の表紙とドラえもんの無料ハンバーガー製造機


夢の細胞農業 培養肉を創る』を読みました。SDGsの観点から近年注目されている細胞農業についていろんな視点から理解が深まる一冊となっています。培養肉をはじめとする細胞農業の基礎知識から普及活動としてのシチズンサイエンス、お家でできるDIY培養肉のレシピ、細胞農業に関する未来予測などが記述されています。アニメ・マンガなどのセリフを引用しつつ、多様な情報がテンポよく記載されており大変読みごたえがありました。個人的に面白かった点を以下にメモっときます。

SFが技術開発のきっかけになる好例!

筆者が培養肉を作るきっかけとなった、ドラえもんのひみつ道具「無料ハンバーガー製造機」がプロローグで紹介されていたり、アニメ「けものフレンズ」に出てくる肉まんのような食べ物「ジャパリまん」は培養肉では?と考察してみたり、自己修復できる細胞からなるエヴァの実現可能性について考えてみたりと、SF好きにはたまらない内容でした。筆者の想像力と遊び心がナイス。
けものフレンズのじゃぱりまんの


細胞農業は第6の生産方式

第1章で「なるほどな」とおもったのが、人類の食糧生産の歴史を振り返った上で細胞農業についての議論をしている点です。過去から人類が始めた順に

1.狩猟
2.栽培
3.畜産
4.醸造
5.合成
6.細胞農業

となり細胞農業を次世代の生産方式として注目しています。しかし現段階としては流行期であり、これから幻滅期や回復期を経て安定供給される時代が来るよ!ってとこも強調されておりました。第2章の「細胞農業の基礎知識」についても、そもそも細胞とは何か?ってところから説明しておりとても分かりやすい。文系の方でもスムーズに読めるのではと思いました。

培養肉のハイプ曲線

シチズンサイエンスとDIY培養肉レシピ

第3章には、筆者がいかに試行錯誤して低コストで自宅で培養肉を作ったかというストーリーが語られています。それが後の普及活動やヨーグルトマシンのように誰でも自宅で培養肉を作れるような社会を目指すShojinmeat Plojectにつながっていき単純に読み物として面白い。

さらに第4章では、試行錯誤の賜物である自宅でできるDIY培養肉レシピが公開されており試してみたくなりました。

細胞農業を広げるための課題とは

第5章では、自宅ではなく工場で培養肉を大量生産するためにクリアすべき3つの技術的ハードルについて論じています。

・低コスト化
・味や食感の再現
・大規模化と自動化

また細胞農業は培養過程で二酸化炭素やアンモニアを排出するから、畜産業と比べて「地球にやさしい」かどうかはまだわからない!という部分が初耳で勉強になりました。土地と水の利用は確実に抑えられるそうです。

細胞農業の未来は明るい⁉

第6章がまとめ&考察パートであり非常に面白いです。現在の培養肉の販売に向けての各国の動き、安全性、法規制などの現在の状況をまとめつつ、肉に対する感覚の世代変化、無毒のフグ卵巣の可能性、食品業界以外に与えるインパクトなど未来の考察につなげています。

倫理、政治、法律などの様々な観点から非常に納得させられる未来予測をバンバン繰り出しており、この筆者めちゃくちゃ頭良い!と思ったらやっぱり英オックスフォード大学を卒業されておりました。

ここが惜しい!と思った部分

培養肉がビーガンやベジタリアンの方や、宗教上の理由で豚や牛が食べられない方には受け入れられるのか?っていう議論がなかったのが少し残念でした。また表紙のイラストや帯のキャッチコピーから野菜、果物、魚、コーヒーなどの細胞農業についての詳しい内容を期待してしまったのですが、本書は培養肉がメイン。これについてはまた別の面白い書籍が出てくることに期待します。

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